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ヤマトの章 5 魂の行方 2

last update Huling Na-update: 2025-05-28 10:50:29

 この日、千尋は独りぼっちになってしまった。

僕を抱きしめて泣く千尋。ああ……僕に君を抱きしめてあげられる腕があったらどんなに良かったか。だから代わりに千尋の顔を舐めた。大丈夫。僕は何があっても君を一人になんかさせないよ。

千尋は泣き笑いの笑顔を浮かべた。

「ああ、そうだったね。私にはヤマトがいるものね。独りぼっちじゃなかったんだ。ありがとう、ヤマト」

そうだよ、千尋には僕がいる。絶対一人になんかさせないよ——

****

 この日を境に、僕は片時も千尋の側から離れないように努めた。仕事先の花屋は勿論、新しくお花を飾る仕事が始まった病院にも付いて行くようになった。僕はいつの間にかここの病院の人達に気にいられて、セラピードッグにさせられていた。でも人の相手をするのはちっとも苦じゃない。何より千尋が一緒だからね。

 そう言えば、ここで働いている一人の若い男性が、どうも千尋に好意を持っているみたいだ。僕なら、好きなら好きってはっきり言うのにどうしていつまでも告白しないんだろう? 言葉にしないと想いは伝わらないと思うんだけどな?

彼はお年寄りの人達に人気があるから決して悪い男じゃないと思う。それに嫌なオーラもまとっていないし。

けれどもそれと同時に僕がこの病院に通うようになって、嫌なオーラを持つ人物を発見した。それは自動販売機の飲み物の入れ替え作業を行っている男だ。この男のまとっているオーラが尋常じゃない。黒くてまがまがしいオーラだ。いつも千尋の事を横目で嘗め回すように見ている。やめろ、千尋をそんな目で見るなんて僕は絶対許さないぞ。

****

 徐々にあの男が千尋に触手を伸ばすように迫ってきた。大量の青い薔薇に不気味なメッセージを送りつけて千尋を怖がらせるし、ポストには奇妙な物を投函してくる。

最低な男だ。

千尋や店長さんはまだ相手が誰だか分かっていないけど、僕には誰がこんな真似をしているのか全てお見通しだった。僕に人の言葉をしゃべれる口があったなら、犯人はこの男ですって言えるのに。だから僕に出来るのは一つだけ。全力で千尋を守る。あの男のまとうオーラは益々闇が深くなっていく。近いうちに何か千尋にしかけてくるかもしれない。

用心しておかないと……。

 数日後、ついに恐れていたことが起きた。あの男が千尋の家に直に上がり込んできたのだ。

やめろ! 千尋に近づくな!

僕は低
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